部署横断的に対応する「つなぐ課」と「かせぐ課」を設置。官民連携や補助金を積極的に活用し、関係人口を拡大中

山形県西村山郡西川町

神奈川県茅ヶ崎市

山形県西村山郡西川町の官民連携の取組について、町長の菅野大志様にお話を伺います。本日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

西川町の活動方針、重視していること

西川町は、非代替性トークン(NFT)やAIなど、革新的な技術を活用した取組を行っている自治体とお聞きしています。どのような方針で活動されているのでしょうか。

ニーズベース、課題解決、経済効果、関係人口、持続可能性、財源確保から成る「西川予算6原則」を掲げて活動しています。新規予算を考えるにあたって、職員それぞれがバラバラの方向を向くのではなく、一体感のある行政をしたいと思い、これらをまとめました。

そのように掲げている自治体は珍しいと思います。関係人口という言葉そのものを6原則に組み込んでいるのですね。

庁内のどの部署でも意識できる言葉だと思いましたし、いかに関係人口を増やすか、というのが重要な課題であると考えています。 関係人口については、地方移住や地域街おこし協力隊への関心という観点から若者層と、二拠点居住への関心の観点から富裕層をターゲットとしていますが、この2つの層が重なるのがNFTマーケットだったので、 デジタル住民票NFTを発行したという経緯があります。
取組について説明する 山形県西川町 菅野 大志 町長 取組について説明する 山形県西川町 菅野 大志 町長

目新しさや話題性があるからというだけではなく、ターゲット層に合致しているという根拠があり導入されたのですね。予算6原則以外では何か意識されていますか。

とにかく、町民との対話を基本としています。LINEのオープンチャットや全世帯に配布しているタブレットを活用して、年60回ほどのペースで「対話会」を町の各地区で実施し、顔を突き合わせてニーズや課題を細かく汲み取れるようにしています。
民間事業者からで提案を受けたとき、その提案に興味がある町の人の顔が具体的に思い浮かびますし、町民の声を直接拾い上げて地域課題の解像度を高くしておかないと、デジタル田園都市国家構想交付金等を得るのは難しいと思っています。

西川町の組織づくりについても教えてください。

観光課や企画財政課といった個別の部署は元々あったのですが、複数の部署に横串を刺して、町の課題に横断的に取り組む部署が必要でした。 そこで、町民との対話からニーズや課題を把握し、町民や企業、 そして関係人口を巻き込むまでを横断的に実施する「つなぐ課」と、財源確保や資金循環などを横断的に実施する「かせぐ課」の2つの部署を立ち上げました。
かせぐ課の業務について説明する 西川町かせぐ課 課長 石川 朋弘 様 かせぐ課の業務について説明する 西川町かせぐ課 課長 石川 朋弘 様

官民連携の取組

民間事業者のアプローチから、官民連携に至るまでの流れを教えてください。

まず民間事業者に対し、時期や金額、手法など、ここだけは譲れないという条件を聞くようにしています。良し悪しをすぐに決めず、候補として忘れないようにストックしておいて、補助金が申請できる時期など、適切なタイミングを待つことが多いです。 そして、町民と対話して集めた課題と、企業の提案や条件をすり合わせる作業をつなぐ課とかせぐ課が先導します。それらの課で検討して良いと判断されたものが、私のところに上がってくる、という流れです。

町長自らが率先して進めていくというわけではないのですね。

もちろんです。職員たちが「なんでこんなのやるんだ」と思っているのであれば、気持ちも入りませんし、皆が腹落ちしていない状況で進めるのは難しいと思っています。

どのような分野の事業者と連携することが多いでしょうか。

国からの補助金の対象になりやすいこともあり、デジタル関係に強い企業と組むことが多いです。 例えば、西川町ではICT系の企業などと組んでタブレットを町内全世帯に配備しています。 平時における情報伝達という課題解決だけでなく、行政側からのアンケートなども実施できて、西川予算6原則におけるニーズベースを速やかに図れるという強みもあります。
タブレットを利用する住民の様子 タブレットを利用する住民の様子

タブレットやNFTもそうですが、新しいデジタル技術を含む政策は、町民や議会には理解されない部分もあるのではないでしょうか。その辺りの合意形成などについて教えてください。

議会に関しては毎月1回、議事録も残らず気楽に初歩的な質問ができる、議会勉強会という場を設けています。まずは平場で取組を知ってもらったうえで、ご理解を得るようにしています。
町民に関しては、新しい技術に関心のある若者層だけでなく高齢者の皆さんにも恩恵があると思ってもらえるよう、かせぐ課が稼いだお金を、高齢者の支援に使えるお金として高齢者支援基金に積み立てています。 高齢者の憩いの場となるイベントをさまざまな地区で定期的に開催しており、そのためのお金をこの基金から出しています。全世帯に配備したタブレットには、高齢者支援基金活用事業の報告も定期的に届きますし、理解していただいているとは思います。 稼いだお金を町民の皆さんの楽しみに使い、そこに若い人を参加させる。 そして、西川町の理解をさらに深めてもらう、という循環を作っています。

連携事例の実績

官民連携の実績について教えてください。

直近ですと、包括連携協定を結んでいる民間事業者と、西川町を舞台にしたアプリ「AI謎解きゲーム」を導入しました。これまで3000人以上がプレイして、経済効果は約1億3000万円です。 実際に西川町に来てくれた人が3時間ほど町を周遊して、チェックポイントになっている休日の役場や道の駅に寄って、お金を落としてくれています。 また、あえて町の端にある、志津温泉という観光客しか泊まらないような所にゴールを設定することで、「こんなところに温泉があるのか」と西川町の魅力を伝える狙いもあります。 あと、西川町の公式LINEアカウントに登録してスタートし、スマホ上で完結するので、リソースがほとんどかからないのが良い点です。
画像 AI謎解きゲームの様子
画像 AI謎解きゲームの様子

メリットが非常に多いですね。LINEで西川町を登録すると、その人たちが関係人口に追加されるという点も良さそうです。

そうですね。例えば、参加してくれた人のLINEに他のイベントやふるさと納税の情報が送られてきて、「なんでこんなメッセージが来ているんだろう・・。 あ!あの時に謎解きをやった場所は西川町っていうのか!」というように、その後も別のイベントへ誘致したり、お金を落としてくれるというメリットがあり、まさに西川予算6原則の関係人口を広げる施策になっていると思います。
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官民連携のどのような点にメリットを感じていますか。

例えば、子ども家庭庁の補助金を得るための計画を作るとき、国のルールを職員が一から勉強するのは大変なので、直接企業に依頼しています。 町民との対話で集めたアンケートを企業に送って、補助金申請の計画に含めてもらっています。 あと、自治体のHPだけでPRするのが難しいときなどには、民間企業の力を使った方が良いと思います。

西川町は官民連携の実績も多いと思いますが、官民連携に携わった事業者がそのまま関係人口のように関わり続けることも多いのでしょうか。

もちろんです。総務省の地域活性化起業人を活用して、三大都市圏に所在する企業の社員を西川町に一定期間派遣してもらっていますが、西川町に何年かいたらこの町や人のことを知っているのに、1つの仕事が終わったからといって関係が終わるのはもったいないと思います。 そのため、日頃から担当外の職員とも交流を深め、その方の人となり・才能を把握し、つなぐ課が定期的にイベント情報を送ったり、当初お願いしていた事業とは全く違う事業にもお声掛けするなど、その後も関係性が続くことが多いです。

西川町の課題、今後について

西川町の課題について教えてください。

観光に関して言えば、月山は夏でもスキーができる日本で唯一の場所なのですが、これからの時代、スキーのためだけに観光客が来るだろうかと思っています。 年々厳しくなると思っているので、スキーだけの一本足打法にならないように、若者向けに変えていかないといけないというのが大きな課題です。 また、西川町は、あと7年で人口4000人を切り、高齢化率が45パーセントになるという予測が出ており、強い危機感を感じています。
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どちらも非常に大きな課題ですね。町全体として何かできそうなことはありますか。

地方移住に興味がある若い層を取り込むためにも、“寛容性”の高い地域にしていきたいです。 以前シンクタンクが発表していた「都道府県寛容性ランキング」というものがあって、若者への信頼や女性の生き方、少数派の包摂などが指標として使われていたのですが、山形県は44位でした。 そもそも、若者への信頼がない地域には行きたくないですよね。若者が移住したくなるような寛容性の高い町を作っていきたいと思います。
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あとは、関係人口を置き去りにしないということです。 例えば、デジタル住民票を持っている約600人に防災訓練やイベントの参加を呼びかけたり、先ほどのAI謎解きゲームの体験者にLINEで西川町の情報を発信したりと、第二の故郷と思われるためには、関係人口の方々のことを考え、情報を発信することが大切だと思っています。

関係人口を増やし、その人たちが移住したくなるような町づくりに向けて、ぜひ今後も取組を続けていただき、官民連携も活かしていただければと思います。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。