地方創生SDGs官民連携プラットフォーム
2022年度 内閣府地方創生推進事務局長賞
受賞団体 取組インタビュー
新たな官民連携手法である国内初のLABVを活用したまちづくりプロジェクト 受賞団体 山口県山陽小野田市 × 山陽小野田LABVプロジェクト合同会社
地方創生SDGs国際フォーラム2023で行われた表彰式
【概要紹介】
山陽小野田市は所有する築40年となる商工センターの再整備に際し、近接地で築60年となる店舗の建替えを検討していた山口銀行と商工センター内に事務所を構える小野田商工会議所を加えた3者で連携についての協議を開始し、単なる拠点の開発に留めることなく、地域課題の解決に資する拠点開発の検討が必要との共通認識のもと、LABV手法を活用した事業展開により、地域の賑わいの再創出を目指しています。商工センター跡地には、市、小野田商工会議所、山口銀行の施設再整備に加えて、山口東京理科大学の学生寮、交流広場、民間テナントをも合わせた複合施設として整備し、中期的には他の市有地も活用した連鎖的な事業を生み出すことにより居住・交流人口の増加やまちに活気を生み出すことを実現します。
【LABVとは】
PPP(Public Private Partnership=官民連携)手法の一つであり、LABV(Local Asset Backed Vehicle=官民協働開発事業体)は、自治体が公有地を現物出資、民間事業者が資金を出資して作った事業体が公共施設と民間収益施設を複合的に整備するもの。PFIは対象が特定の公共施設に限られるのに対し、LABVでは複数の公有地に商業施設やオフィスビルなどの民間収益施設も組み合わせた開発やマネジメントまで行うことが特徴です。
「まちのにぎわいを再創出」するため、LABV手法を選択
2018年夏頃、山陽小野田市長と山口銀行小野田支店長との間で、それぞれが所有する施設の老朽化という共通課題を官民連携手法で解決できないかという話があり、山口銀行と同じ山口フィナンシャルグループの子会社であるYMFG ZONEプランニングに相談したところ、LABVの導入の提案をいただきました。
関係者の間で単に複合施設を作るのではなく、「『まち』のにぎわいを再創出していこう。エリアを活性化させていこう。」という大きな目的を共有し、エリアマネジメントの観点から行きついたのが、LABVでした。
実現のポイントは地域に対する熱意
このプロジェクトは当初から山口銀行さんが関わっており、関連企業への融資だけでなく、事業への出資者としても携わっていただき、ファイナンスがしっかりしていたことがプロジェクト参画へのきっかけとなりました。
また、本プロジェクトの建設、運営等については公募でしたが、応募を検討する中でコンソーシアムを組むにあたり、地域外の会社3社とプロジェクトに関心を持っていただいた地元の企業3社の参画が決まり、双方の強みを活かした座組となりました。
事業計画を詰めていく段階から、このプロジェクトの理念やゴール、やりたいことに共感を強く持っていただき、事業性を意識しつつも、「以前の賑わいを取り戻したいという」と皆様からの地域に対する熱い心意気を感じました。山陽小野田市、地元企業、山口銀行等関係者の熱意により、実現に至ったと考えています。
綿密な説明と市長の思いで得た議会承認
事業検討を始める段階から議会で進捗にあわせてLABVについて理解を深める場を設けてきました。議会が懸念する主な事項としては、事業破綻リスクや土地の現物出資などがありました。自治体の公共リスクを民間が最大限を引き受けてくれていることがLABVの特徴です。LABVに限らず、PPPは官のリスクを民が共有する大前提があることに理解していただくように努めました。土地の出資に係る議案審議の際には、議会から35年間土地を現物出資する意義や、事業性評価の蓋然性、LABVの仕組の詳細等の不明点について徹底的に議論を行いたいと、委員会審議は7時間にわたって行われました。私達も事細かに丁寧に答弁を重ね、最後は、市長がこのプロジェクトへの思いを語り、出資の議案について、議会の議決を得ることができました。
公益性と事業性の両立
他の地域でもLABV導入の検討が進められていますが、「財政的なサポートはしない、また事業で発生した利益を受け取らない」という考え方は、本プロジェクトオリジナルのものです。「民(民間事業者)」としては、「山陽小野田市はリターンを得ない」というメッセージを受けたことで、出資金が抑えられるという観点で座組の形成にもプラスに繋がりました。
また、PFIでは地元企業は少額しか出資しないケースもありますが、本プロジェクトの場合、地元企業からは「積極的に応援するよ」ということで、コンソーシアムからの出資の約50%の出資を負担いただきました。これは、本プロジェクトの象徴的な部分ともいえます。
今回は、長期の事業でもあり、絶対に成功させるため、なるべく風呂敷を広げず小さな形で安全にスタートさせたいと考えていました。主な収入源である大学寮の賃料の中で、建設費等イニシャルコストと事業運営費等ランニングコストすべてをまかなうという計画づくりに一番苦心しました。
学生寮としての活用で安定的な家賃収入を確保
当初は複合施設として、市民活動センター、中央福祉センター、山口銀行、商工会議所を想定していました。しかし、これらの施設は、土日はほぼ閉まっていることから、これではにぎわいが生まれないという懸念がありました。そこで、市立山口東京理科大学に連携を打診したところ、本プロジェクトの事業構想をまとめていくなかで、学生寮建設という形で参画いただけることになりました。
「民(民間事業者)」側としては、事業組み立てにあたり、大学寮から90%の家賃保証の仕組があり、最低限の家賃収入は確保できるという点は、大きなポイントでした。
学生数減少リスクが想定されるのも事実ですが、一方で学生寮の需要に対し供給がまったく足りていない状況であり、山口東京理科大学の薬学部新設以降、近隣のアパートは不足し、学生の居住地が市外に流出しています。そのため大学側からも「学生数の減少リスクは極めて低い」とコメントをいただいています。なお、山口東京理科大学は公立であり、大学の理事会においても、LABVで取り組むということについて、合意を得ています。
他地域でLABV手法を導入するためのポイント
3点あると考えています。
1点目は、「まず何がしたいのかを明確にする」ことです。
「エリアマネジメントで何がしたいか」を考えておかないと、複合施設を作るだけで終わっていまいます。LABVありきではなく、エリアマネジメントの観点からLABVという手法を採用したにすぎないということです。
2点目は、「トップの思い・熱量が大事」ということです。
市長の、LABVは山陽小野田市の未来を切り拓くという確信があったからこそ、このプロジェクトはここまで形にすることができたと思います。
3点目は、「市長の熱い思いに引っ張られるように座組が形成できるかどうか」です。
このプロジェクトでは関係者として産官学金まで入った座組をつくり、その思いに共感いただける民間の方の参画を得ることができました。ハードルはいくつもありますが、プロジェクト関係者で熱い思いをもってメッセージをしっかりと出し、それに、民間の方に応じてもらえるようにする必要があります。最後はまちづくりに賭けるマインドをどこまで共有できるかにかかっているのだと思います。
この3点を踏まえると、庁内での合意形成や、座組を作るうえでのネットワーク構築が図りやすいという点で、本市のような人口5~10万規模の市町村こそが、この仕組みにフィットしやすいのではないかと思います。
日本初の事業化を目指す = 日本初の事業化に向けた困難にチャレンジ