
官民連携、松戸市での歩みと始まり
まずは松戸市で官民連携の取組をはじめられた経緯と背景をお聞かせください。
松戸市における官民連携の概念は、以前から存在していました。PFI(Private Finance Initiative)といった具体的な手法による個別案件は、約15〜16年前から市議会でも活発に議論され、その都度、関係部署が検討を進めてきた経緯があります。また、SDGs推進という新たな視点が加わったことにより、さらに官民連携による取組が積極的に進んできました。
特に、大きな転機となったのは、令和4年度に本市がSDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業として内閣府から選定されたことです。この選定は、本市にとって非常に大きな契機となりました。SDGs未来都市に選ばれるにあたり、「SDGs未来都市計画」を策定するのですが、この計画の中で、私たちは官民連携を単なる手法の一つではなく、SDGs推進の強力な原動力として位置づけました。そして、その具体的な運用を担うのが、現在稼働している「まつどSDGs×産学官民連携事業提案窓口」です。
この窓口は、地域が抱える多様な課題、例えば高齢化や多文化共生といった社会課題の解決、あるいはSDGsの目標達成に貢献したいと考える企業様からの提案を、従来の枠にとらわれず幅広く受け付けるために設けられました。令和5年1月から運用を開始し、今年で3年目になりますが、毎年提案件数は着実に増加しています。企業側も、SDGsへの貢献や地域との連携に高い関心を示しており、連携意欲のある企業さんが増えていることを日々実感しています。

SDGsの取組の中で官民連携が動き出しているということですか?
はい、その通りです。従来からある、公共施設の運営委託のような特定の個別手法を指す官民連携とは、意味合いが異なります。私たち窓口の目指す官民連携は、「企業から松戸が抱える課題の解決に向けたアイデアを提案いただくことで、地域課題の解決を実現し、SDGsの達成に繋げましょう!」という、もっと包括的で柔軟なものです。この窓口を通じて、共創の場を提供しています。
共創を加速する窓口の現状と展望
松戸市の窓口が開設されてから約3年ということですが、どれくらいの申請があるのでしょうか?
また、今後の方向性をお聞かせください。
初年度は5件、次年度は8件、昨年度は約19件の提案がありました。このように毎年右肩上がりに件数が増加しており、累計では30件を超える提案をいただいております。また、松戸市内の企業だけではなく、むしろ市外、特に県外の企業からのご提案が多い傾向にあります。

現在は幅広い提案を受け入れていますが、企業が提案しにくい側面もあるため、今後はテーマ型での募集も視野に入れています。ただし、市全体での認知度向上も課題であり、バランスを見ながら進めていく方針です。
その後、地方創生SDGs官民連携プラットフォームに窓口の提案募集を幅広い分野でご登録いただいたのですね。どのような反応があったでしょうか。
若き力が拓く:ミライノラボとの共創から横断幕プロジェクトへ
学生ベンチャー「ミライノラボ」設立の経緯と、松戸市との連携、そして「7つのアクションプラン」策定に至る背景をお聞かせください。
ミライノラボ:私たち株式会社ミライノラボは、千葉大学で地方創生を研究していた教授らが立ち上げた研究成果活用型ベンチャーです。産学官民連携をよりスムーズに進めることを目指し、大学の枠を超えて独立しました。千葉大学の准教授がCEOを務め、大学生や大学院生が研究員として、自治体や企業との連携プロジェクトを推進しています。

松戸市:松戸市では令和3年度頃からミライノラボさんの存在に注目し、連携の機会を探っていました。そして令和4年度に初めて委託契約を結び、学生さんたちに、自治体SDGsモデル事業の実施エリアである常盤平団地エリアに実際に足を運んでもらい、地域の課題を深く掘り下げていただきました。夜道の暗さや高齢者住民の孤立といった具体的な問題から、「ここを改善すればもっと住みやすくなる」という多岐にわたるアイデアを導き出していただき、それらを「7つのアクションプラン」としてまとめてもらいました。
その中で生まれた「横断幕プロジェクト」は、どのような経緯で具体化し、住民参加型のアートイベントへと発展していったのでしょうか?
松戸市:「7つのアクションプラン」の一つに、多文化共生を促進するためのアートを通じた交流イベントがありました。常盤平団地は外国籍住民が増えており、言葉の壁を越えた交流の場を創出することが狙いでした。当初、学生さんたちは団地の壁に直接絵を描くという大胆な案を提案してくれたのですが、残念ながら維持管理の費用や責任の所在など、現実的には多くの課題があり実現が困難でした。
そんな折、市の広報部門で廃棄予定だった横断幕があるという話が浮上しました。これをSDGsの観点から再利用できないかと課題として「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」に登録したところ、まさにその課題に対し、アートを通じたコミュニケーションに長けた「一般社団法人 サステナブルコミュニティ共創機構」さんから素晴らしい提案が寄せられました。この提案内容が、学生さんたちが温めていたアクションプランの趣旨とまさに合致したことで、予期せぬ形で「産学官民」の連携が一気に実現しました。
ミライノラボ:その後、常盤平団地内の集えるスペースをお借りして、約5メートルある横断幕に絵を描くイベントを実施しました。中央に「つながる、ひろがる、ときわだいらの輪」というスローガンを掲げ、参加者にはその周りに自由に絵や文字を描いてもらいました。イベントには団地近くの日本語教室に通う子どもたちを中心に、保護者や団地の自治会の方々、高齢者の方も合わせて約20名が参加してくれました。専門ファシリテーターが、冒頭に絵を使ったワークショップを開いてくれたおかげで、参加者全員がためらうことなく積極的に筆を手に取り、言葉の壁を越えた交流が自然に生まれていきました。私たちミライノラボが最も重視していた「住民参加型」での共同制作が実現し、多文化共生だけでなく、異世代間の交流も深まる、期待以上の成果となりました。

挑戦の成果と未来へ向けた展望
元々解決したかった課題に取り組んでみて実際どうでしたか?
大成功だったと感じています。SDGsに関する認知度は年々向上し、学生さんたちの活動も活発化しました。令和6年度には市内外の様々な大学から学生が「TOKIWADAIRA YOUTH!」として集まるようになり、団地の住民からも活動への理解と協力体制が築かれました。地方創生SDGs官民連携プラットフォームがなければ、横断幕の件は実現できなかったでしょう。
今後の取り組みなどのお考えはありますか?
自治体SDGsモデル事業は令和6年度末で一区切りですが、この4月からは「第二期SDGs未来都市計画」を策定し、常盤平地区に加えて松戸市全域に対象を広げていく方針です。それに伴い、学生団体も「TOKIWADAIRA YOUTH!」から「MatsuDo!YOUTH」へと名称変更しました。今後は、Z世代のデジタルネイティブな感性を活かし、TikTokやYouTubeなどのSNSを駆使した情報発信に注力します。学生には市のSDGsに関する取り組みを取材して動画を作成したり、「まつどSDGsキャラバンメンバーシップ制度」へ登録いただいている企業へのインタビューを通じてSDGsの取り組みを発信してもらったりと、多様な形で活躍してもらいたいと考えています。市役所の堅い発想ではなく、彼らの柔軟なアイデアが若者に響くと期待しています。
プラットフォーム活用と庁内連携の課題
地方創生SDGs官民連携プラットフォームを松戸市ではどのように活用されていますか?
登録されている課題の具体例も交えてお聞かせください。
プラットフォームは主に「情報収集」として活用しています。セミナーへの参加や、企業版ふるさと納税の募集に関する課題登録も行っています。企業版ふるさと納税については、登録後にプラットフォームの情報を見た企業から問い合わせをいただいたり、また今年度からマッチングサイト運営企業からの提案が増えてきました。
SDGsや官民連携の活動において、他部署と連携して動かしてゆくなどの活動は現状されているのですか?
まだ十分とは言えない状況です。他の部署は通常の業務で多忙であり、積極的に当窓口を活用するまでには至っていません。ただし、窓口に寄せられたウェアラブルカメラを活用した保育士の質向上に関する提案を保育課が受け、実証実験を行っている事例もあります。これは、企業からの提案を我々が関係部署に繋ぎ、興味があればミーティングを設定するという形です。今後は、他の部署へ働きかけ、プラットフォームや窓口のメリットをより具体的に伝えていく努力が必要です。
